ぱぐの好きなうた(8) 2003.6.18


  夕ぐれは雲のはたてにものぞ思ふ
       天つ空なる人を恋ふとて
よみ人しらず 古今和歌集 巻十一 恋歌一
「はたて」というのは「果て」と同じこと。
夕暮れを見ていて、自然に口をついて出てきた歌、という感じがする。
大岡信は宮中の身分高い女性を想っている男が詠んだものだろう、と書いているが、女性が詠んでもおかしくない歌だと思う。宮中に仕える女官あたりが詠んだとしたらいかが。

竹西寛子の読みは、恋だけではない、という。「特定の人を超えた何者かへの限りない憧憬」を詠み込んでいるように思う、というのである。たしかにこの歌の構えは大きくてちまちましていないところがいいのだけど、そこまでは考えなかったなあ。

下の句が好きで、ときどき口ずさむ。
遠距離恋愛とか、とても手の届きそうにない相手をひそかに想っているときには、今でもそのまま通用する歌ではないかしら。
参考文献:『新潮日本古典集成 古今和歌集』(新潮社、1978)
       大岡信 『折々のうた』(岩波新書、1980)
       同上  『名句 歌ごよみ 恋』(角川文庫、2000)
       竹西寛子『日本の恋歌』(岩波新書、1987)

「ぱぐの好きなうた」(9)
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