ぱぐの好きなうた(7) 2002.6.18


  東雲のほがらほがらと明けゆけば
    おのがきぬぎぬなるぞ悲しき
よみ人しらず 古今和歌集 巻十三 恋歌三
東雲=しののめ、と読む。東の空が白くなってくる時刻。
>「あけぼの」との違いは、「あけぼの」は明るんできたとき、「しののめ」はまだ
>明けやらぬ間、という説もあるが、時間的な差はなく歌語と散文語の違いとみ
>る説に従うべきであろう。
古語大辞典(小学館)「しののめ」の項より

ほがらほがら=漢字を当てると「朗ら朗ら」。明るくなって万物がはっきりと見えわたるさま。

この歌のつかみどころは、「ほがらほがらと明けゆけば」の明朗な印象と「おのがきぬぎぬなるぞ悲しき」の心理的な悲嘆を対比させたところにある。細かくいえば「ほがらほがら」に「きぬぎぬ」が対応しているだろう。同じ言葉のくり返しを対比させている。
きぬぎぬ、というのは「衣衣」、つまり夜が明けたらそれぞれ衣をつけて、男は帰らなければならない、という通い婚の象徴。後朝、という字も当てる。

作者についてはよみ人しらずだから何も情報がないけれど、「ほがらか」という言葉が中古女流文学ではほとんど使われていない、という古語大辞典(小学館)の解説に従えば、おそらく「ほがらほがら」も女性は使わない言葉だったと思える。そしてこの歌の悲嘆表現は感情的というより知的で、帰ってゆく男のものだと考えるので男性作者と推定するのだけれど、どう思われるだろうか。

参考文献:
『新潮日本古典集成 古今和歌集』(新潮社、1978)
中田祝夫・和田利政・北原保雄/編『古語大辞典』(小学館、1983)

「ぱぐの好きなうた」(8)
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