保昌に忘れられて侍けるころ、兼房朝臣のとひて侍ければよめる 人知れずもの思ふことはならひにき花に別れぬ春しなければ |
和泉式部 詞花和歌集巻第九 雑上 |
相手に知られずに 物思いすることには 慣れてしまいました 花(浮気な男)はわたしが惜しむ心に気付きませんが 花と別れない春はありませんので |
和泉式部は最初の夫、橘道貞と結婚しているときに冷泉天皇皇子為尊(ためたか)親王、その死後は弟宮敦道親王と恋仲になる。敦道親王とのいきさつを描いたのが『和泉式部日記』だが、為尊親王との恋の間に夫は離れていき、弟の敦道親王も早くに亡くなる。ほかにもいろいろ男性との関わりがあったらしいが、やがて藤原道長の部下でかなり年上の藤原保昌と再婚する。道長は彼女が仕えた一条天皇皇后彰子の父であるから、そういう関係で話があったのだろう。 道貞にはかなり未練があったらしくてしおらしい歌を作ったりしているのだけれど(そういうところが好き)、保昌とはそれほどの仲ではなかったらしい。若いころと違って情熱を傾けなくなったのか。 この歌は保昌がほかの女に心変わりしたときに、藤原兼房(歌人)が聞いたのに答えて作られた。別れには慣れていますから、と相手の問いをはぐらかしている。直接男のことを詠まず花にたとえているのもしゃれている。 「花に別れぬ春しなければ」という下の句の出し方がいいと思う。 <はなにわかれぬ/はるしなければ>と韻を踏んでいる。ここは口に出して読んでみるといいと思う。 即興で応えたんだとしたら、ことばの感覚がいいなぁ。 「人知れず」には向こうが心変わりしたんですけどね、という意味を含み、「花」は浮気な男のたとえなのだそうだ。 |
(2002.5.3加筆) |
参考文献: 『新日本古典文学大系 金葉和歌集 詞花和歌集』(岩波書店、1989) 竹西寛子『日本の女歌』(NHKライブラリー、1998) |
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