梅の花を折りてひとにおくりける 君ならで誰にか見せむ梅の花色をも香をも知る人ぞ知る |
紀友則 古今和歌集巻第一 春歌上 |
あなた以外の 誰に見せようか(「誰」は<たれ>と読みます) この梅の花の色 色をも香りをも深く味わえるひとにしか 味わうことはできないだろうから |
詞書にあるように、梅の花を折ってひとに贈るときに添えた挨拶の歌。 梅の美しさをたたえながら、実は贈る相手の心もたたえるというしゃれた仕掛けになっている。詞書だけではわからないけれど、女性に贈ったのだとしたら友則くん、やるねえ(笑)というところか。 大岡信は『名句歌ごよみ[春]』(角川文庫)のこの歌の解説に、 >「しる人ぞしる」という表現は、この古歌によって、日本語に根づいた >のではないだろうか。 と書いている。手元の古語辞典・国語辞典ではこの歌は用例に挙げられていなかったけれど、どうなんだろう。 作者・紀友則(きのとものり)は貫之のいとこに当たり、古今和歌集の選者のひとりだったが完成前に亡くなった。三十六歌仙のひとり。小倉百人一首・第三十三番「ひさかたの光のどけき春の日にしづごころなく花の散るらむ」の作者。 ちなみに「ひさかたの〜」はかつてわたしのかるたの得意札だったのですが、その由来については笑えるエピソードがあります。ただしほかのひとののプライバシーにかかわるので、興味のある方はメールください。 参考文献:『新潮日本古典集成 古今和歌集』(新潮社、1978) 大岡信『名句歌ごよみ[春]』(角川文庫、1999) 同 『第三 折々のうた』(岩波新書、1983)
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