うしろの方の真ん中の席で見ていたので、出演者のほかに観客の様子も見えた。会場で購入したテキストはその場では見ていない。出演者の作品で事前に知っているものはほとんどなかった。 1.全般的な感想 *40組というのは長すぎる。30組が観客としては限度。しかも最後の休憩がなく、観客がため息つきをついていた。あれでは途中で出入りするひとがいるのも無理はない。 *当日に都合が悪くなったのならやむを得ないが、欠席する出演者がいることは何らかの形で事前に告知できたのでは。 *作品を読む前にコメントするがひとがいたが、短く導入にした場合は成功していた。作品よりだらだらしたコメントの方が印象に残ったのがあって損だと思う。 *複数の組み合わせのが何組かあったが、持ち時間5分×人数と考えたのだとしたら長すぎる。15分が限度。特に後半になるに従って観客は疲れていくものなんだから、順番によって内容も吟味するべきだったと思う。集中できないのがあった。 *会場の広さ、音響、照明はよかったと思う。 |
2.印象に残った出演者(敬称略、番号は出演順) (1)東直子(ひがし・なおこ) ざわつき緊張感が漂っていた会場を引き込む力があって、観客の気持ちをつかんだ。フリスビー投げも成功。 (3)岡田幸生(おかだ・ゆきお) ぼそぼそした感じだが朗読向きの声だと思った。パソコンで読んでいるとなんだか物足りない感じがするときもある日記なのだが、選んだものはよかった。 (6)文屋亮(ぶんや・あき、女性) 途中で感情に負けてしまったのが惜しい。内容が家族に関わることだけにこみ上げてきたのかもしれないが、ひとに聞かせる場合にそれをやると聴いている方は引いてしまうか耳をふさぎたくなるかあるいは入り込んでしまうか、冷静に聴けなくなる。淡々とやった方が内容のインパクトが伝わるのでは。ひとに聴いてもらいながら練習するといいのかもしれない。 (7)杉山理紀(すぎやま・りき、女性) 舞台映えするグレーの光り物のドレスもさることながら、声がよかった。ジェーン・バーキンだったかBGMの選び方もよかったと思う。 (8)結城文 英訳を混ぜた短歌というのは読む分にはいいけれど、聴くとどうだったかなあという疑問がある。英語の理解力が乏しいのもあるかもしれないが、せっかくだったら英語の部分は音楽的にリズムとして楽しめたらよかったなあ。 (10)村井康司 まず岩手の一家の消息を読み上げる。なんとかかんとかは縊死、なんとかかんとかは戦死、と読み上げられるのは穏やかならぬ内容でありながら落ち着いた声のせいか、安堵感を持って聴けたのがふしぎ。人生ままならないものだなあと考えたりして。ギターをつま弾きつつ読んだ俳句もよかった。声の力が大きいのかなあ。 (休憩。以下各10分ずつ) (11)錦見映理子(にしきみ・えりこ) 休憩直後というのはすこしやりにくかったのかな。でも観客を引き込む力があった。だんだん観客が入り込んでいくのがわかる。勉強会と練習の成果か読み方は去年よりうまくなったような気がする。音楽の使い方もよかったと思う。 (13)増尾ラブリー 出演者一覧を見たときから気になっていた名前。短歌漫才をやるとは考えたなあ。パロディはよくできていたと思う。 (15)伊津野重美(いつの・えみ、女性) 舞踏をみているような不思議な舞台だった。歌の内容と体の動きがシンクロして表現になっている。声が通っていた。 (16)黒瀬河瀾(くろせ・からん、男性) しゃべりが長すぎ、そちらの印象ばかり残ってしまった。時間配分的にはどうだったのだろう。短歌よりしゃべりの印象が残っているのはメリハリがなかったというのもあるのかもしれない。このひともひとに聴いてもらって練習した方がいいのかも。 (17)松原未知子 メリハリのある歌が印象的な歌人だが、声もその通りだった。「わたしはカモメ」というのが耳に残っている。 (19)小川優子 赤い着物の遊女スタイルで登場。音楽も歌謡ショーみたいな感じ。こういうのでやって歌が負けてしまうと損だけれど、負けていなかった。 (20)宮崎二健(みやざき・じけん、男性) 遊女の次は天狗仮面が登場。しかもピンク模様の褌姿である。すごくインパクトがあり、観客はすこしあきれたような感じで笑いが漏れる。山伏のほら貝のつもりなのか「ぼー」と吹いていたプラスチックの棒はなんだったのだろう。先に羅針盤みたいなのをつけて。歌はなんかのパロディ?人を食った舞台で印象に残った。「子守歌〜♪」と唄ったらちょうど赤ん坊が泣き出したことも忘れがたい。 (二回目の休憩) (21)田中槐(たなか・えんじゅ、女性) 男性の金物楽器奏者と共に登場。高校の同級生だそうだが名前の紹介がなかった。きれいな音で、それに合わせて耳についての短歌を読んだ。朗読に耳の歌とはやるなあと思った。リズムがよく声が通っていた。 (22)新井高子 とかげに関する詩を読む。ファンタジーを聴いているようで、ファンタジーは苦手なのだがすっと入ってきた。声がよかった。 (24)佐藤りえ いつもながら安心感を持って聴けた。落ち着きを失わない人柄のせいか。短歌と詩。 (25)野原亜莉子(のばら・ありす、女性) 人形を持って人形とおそろいの衣装で登場。人形を持って出てくると落ち着くらしく、別の世界へのスイッチが働くようだ。舞台では自分の世界を見せる、という方法もあってこの人の場合それに成功していると思う。「こわいお話をします」と言ったがさらわれる感じにならないのはなぜかなあ。「わたくしはじゅうよんのまま時を止めにき」というのが耳に残っている。 (28)村田馨(むらた・かおる、男性) 剣道着に袴、竹刀を腰にはさんで登場。幕末の池田屋事件で若くして死んだ長州藩の吉田稔麿を演じながら歌を合間にはさむ。吉田稔麿は松陰の愛弟子でたしか師の名字をもらったんだっけ?歳はたいして離れていなかったはずだけど。中学高校の文化祭で新撰組ファンがこういう舞台をやっていたなあとぼんやり思いながら観ていた。斬られて倒れたところで拍手が起き、そのあと立ち上がってしまったのはタイミングが悪かったけど、緞帳が下りる仕組みじゃなかったからしかたないだろう。最後に読まれたのは稔麿の辞世である。 (休憩、このへんでゆかたを着ていたこともあってくたびれてきていた。このあとはなかなか集中できなかった) (29)Esパラディウム 五人組である。一人づつ出てきたけどそれぞれ五分づつやったのかな。最初の浴衣の男性がしゃがみこんでいたのしか覚えていない。長くて見ているのが辛かったなあ。つながりもよくわからなかったし。 (31&32)松井茂&杉山モナミ 相手の作品を読む組み合わせ。松井のは数字や記号を並べた純粋詩、杉山のは短歌。小柄同士の組み合わせは合っていた。すこし時間が長かったかな。 (ここで急いで外に出て、ロビーのベンチで一休み。従って森本平のは聴いていない。かなり辛く、次の休憩で着替えようかと考えていた) (34)WE ARE! 席に戻る時間がなく、入口で立って聴いた。 ケータイが鳴り出し、なんだろうと思っているとふたりの女性が席を立って左右の通路から舞台に向かって歩いてゆく。左が黒い衣装で大柄、右が白い衣装で茶髪のやせ型、対照的である。トートバッグを肩から下げている。バッグからテキストを取り出し、交互に川柳を読みはじめた。黒の衣装はゆったりとした声、白の衣装は斬って捨てていくような声。現代川柳は時実新子が読者の投稿を選ぶのくらいしか知らなかったけど、おもしろかった。あとで聞いたら黒い方が倉富洋子、白い方がなかはられいこだった。 (さて休憩、と思い荷物を取りに席に戻ったら、休憩なしで最後まで行くという。観客のため息が聞こえる。わたしもたぶんついただろう。次のひとたちのは聴きたかったので席に座った) (35)荻原裕幸(おぎはら・ひろゆき) 直前に梨の実歌会BBSで連作勉強会をしていた<「天使」のエスキース>を読んだ。事前に読んだことがあったのはこの人のだけである。ネクタイを締めたグレーのスーツ姿だったが、サラリーマンの一日を読んだ連作なのでステージ衣装だったらしい。最初の五句を繰り返して読む以外は淡々と読む。淡々としていて作中人物を作者が外から眺めているような短歌が持ち味なのだけど、読み方もそんな感じだった。 (36)穂村弘 短歌ではなく、詩を読んだ。話したことはあっても短歌を読むのは聴いたことがないので聴きたかったのだけど。マカロニの詩はこのひとらしい飛躍する表現もさることながら、「つるりぴょん」という擬音が印象に残った。 (38)松平盟子 一度あるイベントで見かけてひと言二言話したことがある。かっこいいひとだと思った。どんなことをするのか楽しみにしていたのだけど、「平成・曽根崎心中」だった。文楽の曽根崎心中を大夫の声にかぶせるように謡い、自作の恋の短歌を読む。対照的でおもしろい。平成の恋は死ねない、というのが印象に残った。曽根崎心中のいちばんの見せ場、道行(みちゆき)を読む声がよかった。 (40)石井辰彦 去年の三島由紀夫を題材にした朗読は、最後の方でくたびれていたのと三島嫌いがあいまってよく聴けたとは言えなかったのだが、今年のはうまいなあと思った。「雲隠れ 光源氏のための挽歌」。音楽的な声でメリハリがついていて、乗せられていくのが気持ちよかった。 |
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