12月23日
おみやげは何がいいかな?海の向こうからのメールはいつもの口調
少しだけ切なくなって僕のこといつかどこかで思うときには
12月24日
ホテル街そのただ中に妻恋という名の社(やしろ)祈るひとあり
いつになくマジな横顔ねがうのが縁結びなら僕に気づいて
12月25日
想ふより想はれることの安らぎあのときあなたに逢へてよかつた
ゆったりとわたしを包む長い腕きみは日向の座椅子のようで
12月26日
ベンチでのふたりの距離が縮まらない横にいるのに前ばかり見て
いつもより赤いルージュをひいてみる戦に出向く兵士のように
12月27日
ありのまま受けとめてくれるきみだからパンツで歩く姿も許す
夜勤明け疲れて眠る髭面にキスする君の髭面なれば
12月28日
「映画なら銀座で見よう」意気込んだ君を忘れぬ「Shall
we ダンス?」
資生堂パーラー前に午後1時ひさびさに履く白いパンプス
12月29日
<美空ひばりへの追悼歌・伊藤君子"Skylark"を詠める>
ピアソラに艶(つや)を加えてこの国の歌の女王に捧げる挽歌
そこだけがひだまりである病室のカセットデッキでひばりが歌う
12月30日
ベランダで布団干しつつ昨晩の夢を見ている後朝(きぬぎぬ)の朝
吐く息を凍らせながら帰ってく君を見送りもうひと眠り
12月31日
想い出にしたくないからきみと観た「十二夜」の券は栞にするよ
頁繰れば制服姿の君がいる借りっぱなしの「かもめのジョナサン」
1月1日
本当は録つておきたいほどだからしばし味はふ電話の声を
留守録の再生ボタンを押すたびにリフレインする君のおやすみ
1月2日
靴下をかかと入れずに履くきみはミニ「殿中でござる」伸びるよ
抜け殻のような靴下の穴さえも君の爪先の存在証明
1月3日
おたがいに「きみ」とよびあうわれわれは達郎・まりやのようにありたし
日のあたる窓辺に置いた鉢植がもしも愛なら簡単なのに