みそかつと冬青小林勇展
3月31日、人間ドックが終わってから銀座に出かけた。
吉井画廊の冬青小林勇展がこの日までだったから。
冬青、というのは漱石とか鴎外みたいな号で、モチノキのこと。
小林勇(こばやし・いさむ、1903-1981)についてはだらだら日記の2001年6月11日にも書いているが、岩波書店の小僧さんとして入社し、編集者として活躍、戦後、岩波茂雄が亡くなってからは中心人物として経営に活躍した人物。文章をいろいろ書いていて、編集者としてつき合った人たちとの交友録、食べもののこと、中年過ぎになってから熱中した絵のことなどがある。
二十代のころ、わたしが熱中して読んだものは、司馬遼太郎、神谷美恵子、そして小林勇だった。
神谷と小林はもう故人だったし、そのころ特に評判になっているようなこともなかったので、わたしの世代としては変わった好みだったと思う。父は小林と同じ信州伊那の出身だし、母は岩波大好きだったので、むろん小林のことは知っていたが、娘の好みに対しては苦笑いしていた。
小林で残るのはたぶん、編集者としてつきあいのあった文人(幸田露伴、斎藤茂吉、志賀直哉など)、学者(寺田寅彦、三木清、中谷宇吉郎など)との交友録だろう。
小林のこと、というより、小林の目を通して周辺の人物とその時代のことを描いてみたい、というのが二十代から念願していることの一つなんだが、まだぜんぜんめどは立っていない。
四十代から亡くなる前まで独学で絵を描いた。うまい絵……とは言えないな(笑)。よく言えば味があるというのか。
父の親戚の家にも一枚あるというが、見たことはない。なんでその家に絵があるのかも知らない。
展覧会というかたちで見るのは、今回が3度目。一度目は一番熱中した二十代で、今回と同じ銀座の吉井画廊。二度目は小林の郷里の美術館。このとき母校の大先輩にたまたま遭遇してお互いにびっくりした。
今回のは、あまり出品数が多くなく、ちょっと物足りなかった。本人が一番執着していたという牡丹の絵よりも、蟹とかれいの絵がよかったな。
このあいだ、たわむれに「小林勇」でGoogleしてみたら、孫娘(ということはわたしと同世代?)が作っているサイトが出てきてびっくりした。
松岡正剛が「千夜千冊」の247夜に彼の『蝸牛庵訪問記』のことを書いているので、よかったらそちらも合わせて読んでみてください。もっとも松岡は露伴(蝸牛庵は露伴の号)好きとしてこの本を取り上げたようで、小林自身への評価はあまり高くないんだけどね(笑)。
もしかして、この華麗な交友への嫉妬もあるのかな、と思ったりする。おれだったら、露伴にいろいろ教わったらみんなそれを物にしたのに、とか(笑)。
……
ところで、展覧会を観る前におなかがすいたので、矢場とんでみそかつを食べました。前に銀座に行ったとき、場所がわからなくてさんざん歩き回った。その心残りが、「コレステロール高め」という宣告を受けた直後なのに、この店に向かわせたのです。
鉄板ひれかつ定食というのにする。熱い鉄板の上にキャベツが敷いてあって、その上にみそだれをかけたひれかつが載っている。たれはそんなに甘くなくてけっこういけました。