評伝を書くむずかしさ
中丸美繪(よしえ)
『オーケストラ、それは我なり――朝比奈隆四つの試練』
(文藝春秋、2008)を図書館から借りてきた。
同じ著者の
『嬉遊曲鳴りやまず――斉藤秀雄の生涯』(新潮社、1996)
がおもしろかったので、前から読みたかった本。
子どものころ、親の趣味でN響の定期公演に通っていたのだけど、
朝比奈隆は聴いたことがないと思う。
晩年まで現役だったせいか、
えらく神格化されてたなあという記憶がある。
たいこ持ちみたいな評伝ほどつまんないものはないが、
この著者なら単にすばらしい指揮者というだけじゃなく、
悩みや矛盾やイヤラシイ点までも描いて、等身大の
朝比奈隆が読めるだろうと期待している。
―あとがきより―
私が書きたいのは、たとえ偉業を成しえたとしても、
そこに必ず存在していたはずの葛藤や矛盾をも描ききる
評伝である。もし負の部分があるなら、ありのままに
それも書かざるを得ない。
どんな人にも善いところ弱いところがあって、
それをひっくるめて人間だと思う。
弱いところがいちばんその人らしいのかな、
と最近は思っている。
本人の思いと周囲の見方が違う、ということは
よくあること。
ことに内面をストレートに出さないひとの
場合は、わかりにくい。
神谷美恵子はまさにそういうタイプだったみたいで、
わたしは生前に逢ってるわけじゃないし、
日記や親しい友達に宛てた手紙で知った内面に共感し過ぎたせいか、
周囲からの見方にまだ目配りが足りない気がする。
評伝は仕込みが大変だとつくづく思う。
こっちの人生経験が問われるところもあるし。
20代のころ、
「40過ぎたら何か書けそうな気がする」
と思っていたのだけど、そのくらいの時間は必要みたいですね。