図書館から借りた5冊
丸谷才一の『袖のボタン』(朝日新聞社)に、「中島敦を読み返す」というエッセイがある。高校生以来、中島敦は愛読作家のひとりだから、まっ先にここから読み始めた。最近中島敦を取り上げた本を紹介している。
筆頭で紹介された、三浦雅士(このあいだウィキペディアで調べたら妹が作詞家の三浦徳子なんですってね。松田聖子の「青い珊瑚礁」とか杏里の「CAT’S EYE」など)の『出生の秘密』(講談社)は池袋のジュンク堂で買ったのだが、西洋渡りの思想家の名前がふんだんに出てきてちょっと辟易した。
辻原登の『枯葉の中の青い炎』(新潮社)という短編小説集には、中島敦が脇役で登場するお話(タイトルと同じ)があると読んで、これはぜひ読んでみなくちゃ、と思い、清瀬の図書館で予約して待っていた。住んでいる東村山より清瀬の図書館の方が使いやすいのでもっぱらそっちを使っている。
図書館で何を借りるか、というのは本屋に行ったときと同じで、見てから決める。読もうと思っている本は手帳にメモしてあるからそれを探すときもあるけど、どっちかというとえいやっで決める方が多い。
『枯葉の中の青い炎』と一緒に借りたのは次の4冊。
1.徳永康元『ブダペスト日記』(新宿書房)
2.加賀乙彦『生と死と文学』(潮出版社)
3.岩佐美代子『宮廷文学のひそかな楽しみ』(文春新書)
4.同上『宮廷に生きる 天皇と女房と』(古典ライブラリー 笠間書店)
1はハンガリー好きなので。司馬遼太郎が『街道をゆく』で行きたいところに挙げていて果たせなかったところのひとつがハンガリー。マジャール人(ハンガリー人)はアジアから来たから、興味があったのだろう。
徳永氏は90過ぎて亡くなった人だが、古本屋めぐりが大好きで80代になってもヨーロッパに行って古本屋巡りをしたという。エッセイが上手なので、『ブダペストの古本屋』『ブダペスト回想』(恒文社)『黒い風呂敷』(日本古書通信社)も読んでみるつもり。
2.加賀乙彦は精神科医から作家になった人。朝日新聞に連載された『湿原』(上下、新潮文庫)という小説を連載中から愛読したことがある。単行本になってからわたしが出た大学で講演会をやったので聴きに行った。神谷美恵子のことも知っていて追悼文を書いたり最近出た『神谷美恵子コレクション 人間をみつめて』(みすず書房)の解説を書いているので、何か参考にならないかと思って読んだ。
3と4.岩佐美代子は幼少のころに昭和天皇の第一皇女の学友だった人(お父さんは有名な法学者の穂積重遠)で、のちに国文学者。専攻は中古(平安時代)・中世の和歌、女流日記の研究。
こういう経歴の人なので、女房が主君である天皇の后や娘などと、どういうふうに接するか具体的に知っている。
ただの学者だとテキストから読むだけなので背景がわかってないな、という解釈もままあるのだけど、岩佐美代子の本だと具体性に富んでいておもしろい。『とはずがたり』を女の衣装を負担するのは誰なのかという点から読み解くところなど、なるほどねえと感心した。通説の疑問点を払拭した部分をちょこちょこ書いている。
前に斎宮の参考になるかと思って『内親王ものがたり』(岩波書店)を読んだことがあるけど、これもおもしろかった。
『枯葉の中の青い炎』は中島敦登場のもおもしろかったけど、「ちょっと歪んだわたしのブローチ」という話が印象に残った。女の人ってちゃんと相手に愛されていると実感できないとだめなんだなあと思う。